事例研究の対象領域は、精神科臨床だけではなく、比較的社会適応の良好な人々が訪れる職場や学校の臨床心理場面であり、これに慢性疾患を患う患者の家族を加えた。「恩」「借り」「負い目」「義理」の取り扱いが重要になった例について、その病歴や治療経過を詳しく検討した結果、以下の事が明らかとなった。 1)態度の分類:「恩」と「恩返し」などをめぐるクライエントの考え方や態度は、大きく「恩」を感じすぎると思われる態度と「恩」を感じないようにしていると思われる態度とに分類が可能であった。 2)態度と相関する諸因子:「恩」に関する態度と相関する諸因子として、「自責の念にかられやすい」といったような性格的特徴、「恩着せがましい母親の存在」といった家族関係に代表される環境因子を取り出すことができた。 さらに、臨床場面で得られた知見を一般場面に応用するため、幅広い年代の健常者を対象に、面接調査を行い、その結果を整理し、以下のことが明らかとなった。 1)事例研究において明らかとなった諸因子と日常的な「恩」、それに伴いやすい「自己犠牲」「働きすぎ」「自責の念」、さらに「恩を感じない」傾向などとの相関関係を調べることができた。 2)環境調整による「居場所」の確保などにより、人々は休むこと、遊ぶことなどで、健康を確保しており、ほどよく「恩返し」をすることが重要であることが分かった。
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