研究概要 |
ミネソタ多面人格目録(MMPI)は,コンピュータによる実施が早くから試みられたテストである。しかし、実施をコンピュータ化するだけでは,もはや不十分であり,コンピュータ化された適応形テスト形式のMMPIを開発することが必要である。本課題では,項目反応理論に基づく新日本版の適応形MMPIの可能性を検討した。 まず,項目反応理論(2-パラメタ・ロジスティック・モデル)における項目困難と項目識別力を,MMPI新日本版の標準化集団(男性500名,女性522名)のデータから推定した。尺度ごとのテスト情報曲線(TIC)を検討した結果,臨床診断に重要でないMfとSi尺度を除いたすべての臨床尺度で,TICが最大値情報量を持つ特性値はほぼ2であった。特性値2はMMPIの尺度値のT得点の70点に相当し,異常性の指標と一般に解釈される値である。したがって,項目反応理論による検討からも,健常群と臨床群を弁別可能なことが明らかになった。 そこで,項目パラメタの交叉妥当性を,推定に使った標本とは異なる標本によって確認した。さらに,既存のデータを使ったシミュレーションで,尺度の高いところでの推定値がよくあてはまり,臨床群と健常群を分類する適応形MMPIが可能であることが示された。また,適応形テストの利点の一つである提示項目の節約に関しては,各尺度において,約10分の1の項目数で一定の精度の特性値を推定できた。したがって,分類目的の項目反応理論に基づいた適応形MMPIは,提示項目をかなり節約でき推定精度も高いことから,かなり有望なものとなることがわかった。
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