従来行なってきた参与観察を中心技法とするインテンシブなフィールドワークには一応区切りをつけ、もっばら対象を複数の劇団および関連団体に広げたイクステンシブな聞き取りおよび資料収集が中心的調査課題となった。海外調査(民間財団の助成による)をも並行して行なうことによって、複合的な比較研究を念頭に置いた調査も行なうとともに、プロだけでなく社会人が行なうアマチュア的な演劇活動についてもリサーチを行なった。その結果、以下のような事が明らかになった。 1.「芸術爆発」と芸術活動の制度化 1980年代から1990年代にかけての芸術に対する社会経済的支援の動きは、-応米国における1960年代以降のいわゆるarts explosionに類似した傾向をもっている。しかし、その規模や範囲はかなり限定されたものであり、今後予断を許さないものがある。 2.多様な「ブレイク」の意味 文化生産においてしばしば指摘されてきた一種の臨界点的な現象が演劇生産においてもみられる事が明らかになった。つまり、クリティカル・マスにたとえられる現象が生じるのである。この背景には、「作品」とよばれる生産物やサービスの評価の困難さがあげられる。さらに加えて、本格的な産業としての演劇の未熟性が成果のフィードバックの影響を阻害している事も考慮に入れなければならないだろう。 3.プロフェッションとしての芸術家 芸術に対する制度整備の動向につれて、芸術のプロフェッション化が重要な課題となっているが、欧米の研究が示唆するように、日本においても、いくつかの理由により芸術の場合には専門職化が困難である。
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