本研究は、近年の農業・農村の変動過程への農民の主体的対応との関連において、現代日本の農民意識の動態を実証的に探ろうとした。本研究で実施した調査研究の概要および研究成果は以下の通りである。 (1)実地調査においては、山形県庄内地方および福井県嶺北地方を対象地に選び、当該地域の農業・農村の今日的状況について、収集した統計資料・官庁資料等によって分析を行った。とくに、福井県については、1960年代以降の変動過程を詳細に検討して、稲単作地帯における兼業農家の時々の農業情勢に対する主体的対応の特徴を明らかにした。 (2)農民意識の面では、(1)をふまえつつ、典型集落の実態調査、経営責任者面接調査(ケーススタディ)を実施し、営農意識面での転換を兆候として、一方における大規模化、法人化の志向と他方における兼業志向、農外依存志向とが一層分岐しつつある点を明らかにした。また、「家」意識の面においては、生産と生活の分離傾向が進行しつつあり、とりわけ若い後継者世代において「家産」・「家業」に対する意味づけの変容が著しい点など、興味深い調査結果を得た。 (3)また、現代日本の農民意識研究の方法面での進展をはかる意味から、W・I・タマスに代表されるシカゴ社会学の理論的方法的枠組みについて、今日のシンボリック相互作用論の視点を参照しながら再検討を行い、実地調査において入手した質的データ(インタビュー記録)の分析への活用をはかった。
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