長期的な不況と経済のグローバル化は地方レベルでの工業空洞化を生み出しており、これまでの地方の社会と地域産業を成立させていた基盤は大きく動揺している。本研究では長野県の諸地域の実態調査を通じて、地方社会の産業転換の実態と、それを可能にする社会的条件を明らかにしようとした。 まず、長野県全体を対象として、産業転換の実態を長期的視点から分析した。重工業を主体とした産業構造への転換が昭和恐慌以降の長期的不況によって問題として発生したこと、戦時中の工場疎開と終戦直後の経済再建過程で産業転換の基礎が作られたこと、高度成長期に内陸部への工業分散が機械金属工業を中心とする工業構造への転換を最終的に可能にしたことを明らかにした。同時に、1985年以降の工業関係の諸指標をみると、これまでのような機械金属工業を中心とした産業の発展は限界にきており、サービス化、グローバル化に即応した第二の産業転換が必要となっていることを論証した。 次に、具体的なケーススタディとして諏訪地域を取り上げ、製糸業から精密機械工業を中心とした工業構造への転換過程を分析した。また、長野県内でも第一の転換に最も早く成功した地域であるが、機械工業中心の産業構造が限界にぶつかり、第二の転換を最も必要としていることも明らかにした。 さらに、もう一つのケーススタディとして、丸子町の小規模機械金属工業の調査結果にもとづき、小規模機械金属工業事業所の存立構造と再生産の基盤を分析した。現在では社会内の人材供給面でも、産業組織的にも、かつてのような小工場の再生産が不可能になりつつあることが地域社会と地域産業にとって最大の問題であることを明らかにした。
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