本研究は慢性病の治療を行なっている診療場面において生じる主要な「問題」群がいかなるものであるのかを特定化し、医師および患者らが協同して行なう「問題状況」への対処戦略を明らかにすることにある。研究はある大学付属病院のリウマチ外来診療室で行なわれた。そこで、観察され、テープレコーダーで記録された医師と患者の相互作用の60ケースをデータとしている。分析から得た主要な知見は以下の点である。 1.慢性病の治療においては、当然なことながら当然なことながら病気や治療を長期的な過程の中で、すなわちストラウスのいう「病気軌道」ないし「病気軌跡」において把握する必要がある。日々の診療の意味は長い「病気軌道」の中に位置付けられてはじめて意味を持つ。 2.この「病気軌道」のゆえに、慢性病の治療には固有な「問題状況」が生じてくる。それは第一に、リウマチ病の治療には「不確実性」や「危険性」をともなう。各患者によって病気の進行や変化はことなり、病気を完全にコントロールすることは困難であるし、投薬などによる長期的な治療が患者に副作用をもたらす。第二に、「医療保険制度の制約と患者の便益のジレンマ」が生じる。患者への配慮、例えば一度に薬を多く出して診療回数を減らすことは、制度と抵触する。制度も患者も、いずれも守らねばならないとすればジレンマ状況に直面する。 3.長期的な診療継続は、これらの「問題状況」に医師・患者が協同してうまく対処するときに可能となる。診療場面での医師-患者間の相互作用の観察から、「専門的概念に頼らない対話」「交渉」「制度的回避」などが対処戦略として重要な位置を占めていることが明らかになった。
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