平成6年度は、被差別部落の人々に対する聞き取りによる生活史をとおして、差別からの解放に向けての主体形成を、農民運動とのかかわり、戦後の労働運動とのかかわり、解放運動とのかかわり、の3点にしぼり資料収集を行った。 まず鳥取県東部のA部落のリーダーの生活史聞き取り調査により、農民運動・労働運動とのかかわりのなかで、差別に対する怒りや苦しみを、解放運動への意欲へと転換していく過程を聞き取ることができた。特にかれらの生活史資料を検討するなかで、被差別体験が、解放運動への主体形成につながる条件、関係性を示す資料が得られたことは、これからの人権回復への人間形成の可能性を探る上で、極めて重要である。また、解放運動のリーダーとしての主体形成にとって、体験したことが直接に意味をもつ場合と、後になって意味あるものとして転換されて付加価値をもたされていく場合とがあることが判明した。これは、「生活史と時間の関係」としてひじょうに興味深いものである。 次に軍港舞鶴港の形成とともに鳥取県からの移住によって形成された被差別部落のリーダー層の生活史調査を行った。この聞き取り調査のなかで「語られない生活史」として、舞鶴市既存の被差別部落のよる「新部落」にたいする差別という現象を把握出来た。しかも、この「沈黙された部分」が、むしろ同対審答申の成立以前に解放行政に成果をあげさせたこと、そして同時に、この部分が現在全国的には舞鶴市の同和行政を停滞させているという状況を結果していることを明示した。 こうした点を論理的に解明するために、得られた生活史資料をすべてテープからおこし、分析・検討することにより、平成7年度には、その成果をいくつかの論文として公表することにしている。
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