部落解放運動のリーダーたちの生活史を分析し、彼らのリーダーとしての主体形成に関与する要因について解明した。 彼らの開放運動への共鳴と参加は、第一段階においては、自己の体験に裏打ちされた差別に対する感情的反発や弱者一般に対する義侠心に根ざしてなされている。また、差別による入会権の回復をめざした山林解放闘争や火葬場設置闘争といった歴史的経緯に基づく運動に参加するなかで被差別部落民としての自覚にめざめ、開放への決意を固め、解放運動のリーダーとしての主体性を形成している。すなわち、初期の運動への取り組みは、主として個人的な能力に依存した感情的・非組織的な啓蒙運動にすぎなかったものが、運動に参加するなかで、革新的なイデオロギーと結びつくなかで、リーダーとしての主体性を発展させていっている。 また、重要なことは、運動に取り組むなかで、良き仲間、良き先輩と出会うことでリーダーとしての主体性を形成していることである。要するに、自己の被差別体験に基づく感情的反発が一つのイデオロギーや思想に出会うことによって、リーダーとしての主体形成がなされており、さらに現実の運動に取り組むなかで明らかにされてくる差別実態との闘いのなかで自己のアイデンティを明確にもたされていっている。 そして、部落開放の主体性の確立にとって特に大切なのは、重大な他者(人の場合もあれば書物の場合もある)を内面化できるか否かという点であることが解明できた。
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