今回の科学研究費補助金によって次の3つの研究を行った。 (1) 既に実施済みの「性的被害の実態調査」の分析。 (2) 同じく実施済みの「児童虐待の実態調査-大学生・専門学校生対象」の集計・分析。 (3) 「性的な仕置きを含む体罰についての実態調査-大学生・専門学校生対象」の一部実施。 外に、性的虐待の犠牲者に対するカウンセリングや虐待防止教育に従事している専門家やインセスト・サバイバー(子ども時代における親族による性的虐待の経験にもかかわらず生き抜いてきた人々)からの聞き取り調査も実施した。ここでは、既に分析も完了し、一部を論文として投稿済みであり、また全データについての報告書も印刷中である(1)から得られた知見について述べる。 (1) 調査対象者(452名の大学・専門学校の女子学生)中の「無答」を除く回答者(408名)のうち89.5%が何らかの性的被害の経験をもち、「被害経験なし」は10.5%にすぎなかった。 (2) 性的被害を受けた時期については、「高卒後」が33.5%、高校以前の「子ども時代」が65.0%であり、「子ども時代」の「性的虐待」が過半を占めた。 (3) 加害者については、「見知らぬ人」が最も多かったが、「親族」によるインセスト的虐待も3.6%を占めた。これをわが国の女性人口に単純に当てはめると227万人の女性がインセストの犠牲者ということになり、この数値は決して無視できない数字と言える。 (4) 性的被害のもたらすトラウマについては、本調査によるデータから、「接触的被害」か「非接触的被害」かなどの外形的厳しさの基準からは判断できず、いわゆる「軽微な」被害が深刻な外傷経験となりうることが知られた。 (5) このいわゆる「軽微な」被害を含めて、あらゆる性的被害について、とくに子ども時代の性的虐待、ことにインセスト的虐待について、予防教育を含む社会的対応の必要性が示唆された。
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