今回の研究は、鉄鋼の町として栄え、現在では全国の政令指定都市の区部で最高の高齢化率を示す、北九州市八幡東区を「インナーシティにおける高齢者処遇過程の研究」という題目で研究した。二年間に亘る質的・量的な調査や資料分析から、産業都市の成長、安定、衰退、復興の様子をみることができた。 まず、今回の調査では八幡東区の尾倉校区に限定して分析した。ほぼ1万3千人の人口をもつこの地域でみても、人口高齢化は、均質ではなく、まばらな形で高齢化が進んでいた。天神町(35.5%)、神山町(26.7%)のような高い地域と西本町1丁目(13.6%)のように低い地域が存在した。概して、高齢化の地域は、老朽家屋や急な斜面に建てられた家屋群か有料老人ホームのある地域であった。 次に、アンケート調査では65〜79歳を調査したが、対象者の内、6割が高齢者は県外か県内の出身者が占めており、40年以上の居住者が、6割強を占めていた。「住みやすさ」、「生活満足度」、「生きがい感」といった意識状況でみると、回答からは肯定的回答が予想以上に多く、深刻な事態を生むまでの状態ではないことがわかった。この地域は、かって公民館活動などが極めて盛んになされた地域で、それが高齢者の町内会(64%)、老人クラブ(都市部でありながら約40%の加入率)、サークル活動(36%)の参加率等を生んでおり、インナーシティ化のなかで進みやすい不安や生活問題をこうしたフォーマルな集団参加やインフォーマルな人間関係が安全弁を与えていることがわかった。特に、予想した以上に別居した子どもの近接別居型のパターンがみられ、子どもの未婚者の割合の高いことも、意外な知見であった。今の社会に「老人排除の仕組み」があると認知する人は、4人に1人の割でみられ、「老人扱いされていやな経験をした」、「家族に誇りを持てない」人ほど、この老人排除の認知意識が強まる傾向がみられた。
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