宮城県角田市および七ヶ宿町の二つの対象地を集中的に研究した。1.角田市における現地調査では、農民家族の変化を、古豊室農業生産組合の「梅干し加工部門」における主婦の活動から探究した。そこでは一時9名の主婦が就労したが、うち6名がいずれも、農外の職に就く後継者夫婦の育児を代替する、つまり「孫の世話」のために離脱していった。この調査から以下の点が明らかになった。1)親世代は後継者世代に自家農業を強要できず、各世代の夫婦ごとに生活指向を見ていく必要があること。2)とはいえ、親世代と子世代の夫婦は互いに連携して一つの農民家族を形成しており、依然として一つの生活単位であること。2.七ヶ宿町を対象とする研究では、過疎・高齢化の著しい一山村を事例として、そこに定住する人々がいかにして収入を得、農業を営み、生活を維持し、家を継承しているのかといった点に着目し農民家族の諸特徴を探った。特に、高齢者世帯がいかにしてみずからの生活を維持しているのかについて、事例を通して検討した。その結果、以下の諸点が明らかにされた。1)高齢者世帯は、みずからが生活する自然環境と社会環境を「代替不可能なもの」とみなしており、強い定住志向を有していること。2)高齢者世帯の生活は、その稲作作業をはじめ生活の様々な面において他出子の援助によって維持されており、近隣の家々は日常的には高齢者世帯の生活維持活動を援助してはいないこと。3)とはいえ、山村の村落社会は、高齢者世帯の生活維持に必要な環境基盤の不可欠の部分を提供していること。以上のように山村における高齢者世帯の生活をとらえた上で、なぜ山村の村落社会を構成する近隣の家々が高齢者世帯に対して援助を与えないのかについて考察を加えた。
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