本研究は、戦後日本官僚制の機能を、その中枢に位置する上級官僚の「ライフコース」と関連づけた役割認知行動の様態から検証評価することを課題とする。この達成のため、本年度は以下の作業を行った。 1。退・現役上級官僚を対象に1995年2〜3月に実施した質問紙調査(郵送法)のデータ(4コ-ホ-ト327名)を、第2次的経歴情報をも付加して分析し、平均的・コ-ホ-ト別ライフコース・パターンを析出した。次はその知見の一端である平均的パターンの素描である。(1)地方の小都市ないし農村の、初等・高等教育歴の専門・管理職ないし商工自営業を営む父と、初等中等教育歴の母のもとに生まれ育つ。(2)小学生期に、両親、恩師のすすめ、友人のモデリングで大学進学と官吏を志望し、大学在学中にそれを決定づける。(3)23.9歳で公務員になり、28歳で結婚、末子誕生は34.3歳。(4)省庁課長39.5歳、局筆頭課長45.1歳、局長50.6歳(83名が54.4歳で事務次官・庁長官に就任)、退官54.4歳。全子結婚は60.8歳。(5)兵役、家族の病気や死、離婚、仕事の挫折、議員との対立等の人生の転機、また、老親の介護や両親との同居、仕事上の難事等の解決困難な出来事も経験する。(6)中枢官僚の役割はイ.政治的決定のための基礎的作業、政策執行のための行政裁量、社会の望ましい方向への変革作業を行い、ロ.政策の趣旨説明と協力依頼、利害の調整と情報入手のために議員や利益団体と接触することであり、ハ.政策一般を問題なく処理しているのは官僚であるとの認識をもつ。また、ニ.強い「間人主義」的人間観を有する。 2。上記回答者の内の49名を対象に、1995年7〜12月に、東京・京都で重要な他者の影響、標準的・非標準的出来事の経験等をヒアリングする生活史調査を実施した。現在、面接結果を収録したテープの再生・編集を終了し、引き続き、対象者の著作・伝記や第2次的経歴情報を付加して、各人の生活史を再構成する作業を継続している。
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