研究概要 |
平成6年度は、「獄中ノート」の全体構造を把握するうえで、決定的に重要なのが、いわゆる獄中第二軸(1931〜1933年末)に執筆された「特別ノート」(第8ノートから第17ノート)であるという作業仮説のもとで、特に第二期前半のノートの分析を行なった。とくに「第10ノート」から「第13ノート」(クローチエ、ブハーリン論,知識人論,マキァヴェリ論)の「獄中ノート」全体構造における重要性が明らかとなった。すなはち、「第10,第11ノート」におけるクローチエの歴史主義的方法論の批判的摂取,ブハーリンの実証主義的・機械的唯物論の方法論的批判を経て、「第12ノート」における知識人論,「第13ノート」におけるマキアヴェリ論が展開される過程が明確となった。従来、「第13ノート」は、「現代の君主」としての政党論に焦点をあてたノートと理解されてきたが(エイナウディ版問題別編集の重大な欠陥もそこにある)、グラムシが「第13ノート」において主要テーマとしたのは、(1)「実践の哲学」における「政治」の問題の解明,(2)「政治の科学scienza」と「政治のアルテarte」の関係、とくに後者(arte)の特自の意義、(3)実践知としての賢慮・識見prudenza(フロネシス)の重視(arteの知的基盤として)の三点であることが明確となった。政治社会(強制のモメント)と市民社会(同義のモメント),ヘゲモニ-とヘゲモニ-装置,知識人,受動的革命等の諸概念も前述の三点をふまえて、理論的にも歴史的にも豊富化され、リソルジメント論(第19ノート)フォード主義(第22ノート)等のノートに発展させられていくことが明らかとなった。その意味で、「第13ノート」(この主題は、後続の第14〜第16ノートにひきつかれていくが)の特別の意義が明らかとなったことは、今後の「獄中ノート」全体構造の解読と再構成に大きな意義をもつといえよう。
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