現代日本の農村は都市化を基軸とする急激な変動過程におかれているものといえる。この変化は昭和30年代における経済の高度成長過程に対応しており、農村に則していえば、伝統的な村落共同体の解体化、村の枠をこえた共同組織や生活諸関係の地域的拡大が顕著になり、家族に関しては兼業化や居住パタンの変化、跡継ぎ問題や家の規範の変容と結びつく諸現象が顕在化してくる。さらに、両者を媒介する親族組織も伝統的家族である家の変化や、村落の変化に対応して変化が生起している。本研究は、このような現代農村における家族、親族の構造と変動を農村の就業構造の変化との関連において明らかにすることを目的としている。そして、京都府綾部市黒谷地区を調査地として選定し、1972年調査の結果と今回の再調査によって、つぎのような農村地域社会の変動を明らかにすることができた。 (1)黒谷の人口は20年間に30%減少し、しかも老齢化が進行し、65才以上の老齢人口が30%台になっている。 (2)黒谷は就業構造は20年間に紙漉き従事者が激減し、しかも従事者は高齢者のみに限定され、それ以外の家族成員は村外への他出と「在宅就業」の形態が顕著に認められる。 (3)黒谷の家族構成は、農村に伝統的な直系家族形態よりもむしろ核家族形態が多く、しかも老人による夫婦家族の増加が顕著である。それは、家族員の他出化によるものといえる。また家の連続意識は祖先祭祀に強く顕現し、成員と所有の要素は後退している。 (4)黒谷の親族組織は、同族組織としての株と親類関係が構造的には共生関係にあるが、機能的には親類関係が優位になっている。
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