豪雪・過疎・超高齢化山村における分散・孤立した高齢者のみ世帯の生活は、除雪、家屋の維持、火災等に対する安全・防犯、通院などの交通、日常生活の利便性など生活の全面にわたり大変厳しいものがある。人的資源の流出に加え、過疎化の進行に伴う財政悪化や投資効率の低下による公共サービスの脆弱化がその背景にある。それを補う形で残村高齢者と他出子と密度の高い親族ネットワークが形成されている。他出子の居住地の違いによってその緊密度や交流・援助の手段に違いは見られるがそれはさほど大きなものではない。その内実をなすものは、老親に対する精神的・経済的・身体的扶養と「家」(稼業・家作、墓、親族関係)の継承、郷土への愛着などである。しかし、他出子の帰郷への直接的な動機づけとしては、そうした所与の客観的条件よりも、他出子側の主体的条件に拠るところが大きい。他出子家族内の子供の成長・自立(就職、結婚)、帰郷後の仕事・役割・生きがいの有無、帰郷にたいする家族の同意などである。比較対象群として行った、冬季間(4〜5ケ月)に他出子世帯と同居する「出ぐらし」高齢者世帯の調査によると、残村高齢者の自立の低下による通院や要介護の高まりが、他出子の帰郷への要因とはならずむしろ高齢者の「引き取り」(村外流出)を促していることにもそれは示されている。また、帰郷後の不安として上げられているのは、先のものの他、自分の老後とりわけ介護問題や人間関係でありその点でも、他出子は帰郷を自らの問題として受け止めているということが分かる。したがって、具体的に帰郷を考えている1割弱、漠然とした願望のものも含めて4割弱にも上る帰郷意向をもつ他出子の帰郷がどれだけ現実性を帯びるかは、現存の高齢者と他出子の親族ネットワークへのさまざまな形の支援に加え、村と他出子の早期からの情報交換・交流と幅広い高齢者のためのまちづくりにある。高齢二世代家族の再生の条件もそこにある。
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