本年度には、理論研究では、主としてアメリカにおけるエイジングや高齢者に対する偏見に関する文献の収集および専門家の意見拝聴を行った。一方で、エイジングに内在するポジティヴな側面の分析をやはりアメリカにおける老年学の文献からまとめるという作業を行った。これらの成果は、部分的には、「高齢化社会と生涯学習」(池田・近藤編『教育計画と学習社会』東信堂)などに収められている。 一方、実証研究の方は、以前から研究室で継続している調査研究と絡ませて、高齢者と大学生に対するエイジング・クイズや老人イメージに関する調査を行い、両層のエイジングへの意識のちがいの構造化を試みた。この成果は、部分的には研究室の『老人イメージに関する調査研究』報告や大学の研究紀要の中で出されていく予定である。また、本年度は、さらに老いと死に関する高齢者と大学生の意識比較調査を進め、現在大学生データを収集・分析し終えたところである。 以上の理論的・実証的研究から得られた知見としては、例えば以下のような点があげられる。 1 エイジングには人間の知恵という点から、教育学の基礎概念としてまとめ直すことが求められている。一方で、この知恵に内在する要素の摘出が求められている。 2 エイジングは、人間の死に対する意識と不可分の関係にあり、この点で高齢者のエイジング意識は若年者のエイジング意識と異なるようである。 3 老いや老人に対する偏見の世代差に関しては、若年者は、エイジングの心理的側面および社会的状況の知識の理解が不足しており、こうした側面の教育が求められていると考えられる。
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