本年度には、理論研究では、「エイジングのポジティヴな側面」と「老いと死」に関する内外の文献の収集を行った。とくに高齢者が老いや死をどう受け止めているかが、ひとつの重要な焦点となった。この成果は、本年度実施した質問紙調査および成果をまとめた論文の理論的背景の部分で出されている。 実証研究の方は、こうした理論的整理をふまえて、高齢者に対する「老いと死に関する調査」を実施し、すでに調査を終えている大学生調査の結果との比較を行った。そして、とくに高齢者が若年者と比べて、エイジングや死に対してどのような意識構造を有しているのかを分析した。この部分のみのまとめは、研究室の『老いと死に関する調査研究』で報告している。 以上の理論的、実証的研究から得られた知見は、以下のようなものである。 1 エイジングを「年をとること」と「老い」に分けた場合、高齢者は、これらを同様の現象としてとらえていたが、大学生は別個の現象としてとらえていた。 2 高齢者は、大学生に比べて、エイジングをポジティヴにとられていることが示された。 3 エイジングに対してネガティヴな意識を有しているのは、比較的それまでの社会階層が高いとみなされる層の者であった。 4 死に対する意識では、高齢者は、大学生に比べてそれほど死の恐怖をもっていなかった。 5 死の準備教育に前向きな態度を示した者は、高齢者・大学生ともに、死をよく話題にしたり考えたりした者であった。死が隠されている、死が恐ろしいと思う者も、この教育に対して前向きであった。
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