本科学研究の成果として得られた知見は、以下の通りである。 1 欧米の理論研究からも示されているように、「エイジング」にはポジティヴな含意がある。日本語では、「知恵」「発酵」という概念に近いが、この部分を摘出することが教育学にとっての重要な課題である。 2 高齢者は、大学生に比べてちがった老人イメージの構造を有している。因子分析の結果では、高齢者はその精神的側面を重視するのに対し、大学生は評価的・外観的側面を重視していた。 3 エイジングへの偏見に関する世代間比較においては、大学生は、エイジングの心理的・社会状況的側面の理解が不足していることが示された。この方面の客観的理解のためのエイジング教育の方向が示唆された。 4 エイジングを「年をとること」と「老い」に分けた場合、高齢者は、これらを同様の現象としてとらえてていたが、大学生は別個の現象としてとらえていた。 5 高齢者は、大学生に比べて、エイジングをポジティヴにとらえているということが示された。 6 老人やエイジングに対してネガティヴな意識を有しているのは、比較的それまでの社会階層が高いとみなされる層の者であった。 7 死に対する意識では、高齢者は、大学生に比べてそれほど死の恐怖をもっていなかった。 8 死の準備教育に前向きな態度を示した者は、高齢者・大学生ともに、死をよく話題にしたり考えたりした者であった。死が隠されている、死が恐ろしいと思う者も、この教育に対して前向きであった。
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