研究概要 |
幼稚園や保育所で、幼児の「人とかかわる力」の形成に問題が生じていることが明らかになった。そこで、幼稚園,保育所に子どもを通園させている母親の社会文化状況(人間関係)に焦点をあてた調査を行った。 1.幼児を子育て中の母親の社会文化状況を把握した。幼稚園の母親は80%が専業主婦であり、保育所の母親は49%がフルタイムで働いている。日本型のM字型就労曲線を裏付け、「3歳までは母親の膝の上」という母親の育児観と一致していた。幼児を子育て中の母親の大多数(85.8%)が核家族であった。また、子ども数の減少により、「近所に子どもの遊び友だちがいない」「子どもをとおしての親どうしのつきあいの広がりがない」との悩みを抱いていた。母親たちは近隣(片道2時間以内)の父母,義父母その他の親族と交流し、あるいは、近所の友人と交流し、また、自らカルチャーセンターや合唱、ダンス等の文化活動を行って社会的ネットワークをそれぞれに模索している。幼児教室で子どもの友だちをつくり、母親自身も社会交流を深めている例もみられた。 2.近隣に子どもが少ない分、母親たちは幼稚園,保育所に幼児の「人間関係」形成面で期待を寄せている。その母親たちが幼児の「人間関係」の内容で何を重視しているかを調査した。すると母親たちが幼児に期待する「人間関係」は、自分たちがその中で育ってきた日本型「人間関係」であった。すなわち、個性、自立、自己表現、ルールの重視、よりも、「協調」「共感」「気持ちの通じあい」を重視していた。日本型「人間関係」は日本の文化に根ざしており優れた面もあるが、個を尊重し、原則に基づいた人間関係は育ちにくい。 3.母親の「人間関係」観は、幼稚園教師が抱く「人間関係」観とも一致しているようである。今後、親-教師の「人間関係」観の国際比較へと研究を発展させたい。
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