本研究の目的は、「豊かな社会」(=高度消費社会)における教師の役割を、実証的な方法を用いて検討することにあった。 そのために第一に、近年問題になっている教師の「多忙化」に焦点を当て、多忙化を引き起こしている現象を検討することから教師の役割を考察しようとした。第二に、学校内における意思決定過程を観察することにより、現代の学校がどのような責務を負わされているのかを検討することから、教師役割を考察しようとした。 本研究の特徴的な点は、こうした研究目的を遂行するために、従来のアンケート調査のみならず、エスノグラフィ、および、インタビュー調査やビデオによるデータ収集を実施した点にある。 こうした実証研究の結果、次のようなことが明らかになった。(1)、教師の仕事は、企画、事務、指導、管理というような種類の違った仕事を、並行しながらこなさねばならないという、複線的な在りように内在しており、(2)突発的出来事によって仕事の優先順位を瞬時に決定しなければならないのだが、(3)突発的出来事が頻発する状況にあることが示され、これが現在教師の多忙化を招いている原因であることが明らかになった。すなわち、「児童・生徒」役割に収まりきれない子どもの増加が、教師の多忙化を招いているのである。 一方、学校の組織レベルでは、意思決定のあり方などについて、個別教師の責任と指導の範囲が明確になりつつあることが明らかになり、これまでのゲマインシャフト的人間関係における組織のありようとは大きく変容しつつあることの実態が浮かび上がった。 この両者、すなわち消費社会における子どもの変化と、学校の組織化の進展が、いかなる教師役割を新たに要求しているのかについては今後さらに検討する必要がある。
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