ル-マンのコミュニケーション論の特徴は、従来のコミュニケーション理論のように、発信者、メッセージ受信者によってコミュニケーションを分節化するのではなくて、情報、伝達、理解によってコミュニケーションを分節化する点と、社会システムの要素をコミュニケーションとして捉え、社会システムを自己準拠的に捉え、心的システムは、社会システムの環境・外部として把握する点にある。従来のコミュニケーション論では、メッセージはそのまま誤解なく伝達されることが前提されていたが、実際のコミュニケーションには誤解も多い。というより解釈のズレこそがコミュニケーションの豊かさを保障しているといえる。こうした実態を把握するには、伝達内容(=情報)と伝達意図(=伝達)を区別して、さらに理解と誤解の次元を区別する必要がある。また、従来の授業分析においては、生徒と教師のコミュニケーションという視点が強く、授業自身が要素としてのコミュニケーションによって自己準拠的に進展していくという視点に欠けていた。この観点に立つと、授業システムの自己準拠と教師の自己準拠、生徒の自己準拠が区別できることになる。そうすると教師や生徒の発言は、単に教師や生徒の発言としてではなくて、授業システムにおけるコミュニケーション要素として位置づけられる。従って、情報、伝達、理解についても、生徒の側からすれば、教師の伝達意図を授業コミュニケーションシステムとの関係で把握する必要が生じる。教師の側からすれば、今までの授業システムと一人一人の生徒の自己準拠システムへの理解に基づいた因果プランにより発言を行うということになる。こうしたモデルにより新しい授業分析が可能となる。
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