ニクラス・ルーマンのコミュニケーション論の教育学への応用に関し、初年度(平成6年度)は、ルーマンのコミュニケーション論の特徴をまとめるとともに(この内容は「コミュニケーションとしての教育-ニクラス・ルーマンの理論的射程」として科研の報告書にまとめられている)、ルーマンのシステム論をドイツの新教育運動の分析に適用した(「新教育運動のシステム論的再評価をめざして」『近代教育フォーラム』平成6年9月)。2年目は、ルーマンのシステム論を日本の戦後の教育学に適用し、その特徴を明らかにした(「システム論の立場から教育哲学を問う」『教育哲学研究』第71号平成7年5月)。最終年度は、ルーマンのシステム論の教育学への応用可能性について幅広く検討した(「ニクラス・ルーマンのシステム理論の教育学への応用可能性について」という題で報告書にまとめられている)。 全体として、ルーマンのコミュニケーション理論が、従来のコミュニケーション理論と異なり、「情報」「話しかけ」「理解」の三要素からなるという新しい知見を提示しており、この知見が様々な教育的分析にも応用可能であることを示そうとした。さらに社会システム全体をコミュニケーションを構成素として考える見方が、教育システムや授業システムの分析に対し様々な分析可能性を与えていること、たとえば、反省知として教育学を捉える見方、教育学を教育システムのシステム分化から捉える見方、授業をオートポイエーシスシステムとして捉える見方などの新しい分析視角を与えていることを示した。
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