本研究は、臨時教育審議会答申の眼目のひとつである生涯学習機会の拡大が、地域社会のなかにどのように浸透してきているのかを実証的に明らかにすることを主たる目的としている。研究2年目となる本年度は、昨年の都市部(神戸市)に引き続き、兵庫県下の周辺地域(漁業と海運業が中心の家島群島、サンプル数516と純農村の但東町、同821合計1337)において高齢者を中心とした質問紙調査を実施し、以下の知見を得た。 1.生涯学習に対する認識や、その必要性を求める声は都市部と変わらずに高い。しかし、学習ニーズは、「経済的・社会的要請」でなく「人間的・個人的要請」からの需要に偏向している。 2.周辺地域(過疎地域)の高齢者にとっての生涯学習とは、コミュニティ・ネットワークの形成および継続のための場と機会と換言することができる。よって、生涯学習機会への参加の主たる動因は人間関係が前提となっている。 3.周辺地域における学習機会や場の提供は、都市部に比べてかなり条件的(特に地理的要因、学習情報の不足)に劣っており、これが学習参加を阻害する要因となっている。 4.周辺地域に限って概観すれば、一般に、学習関心の高さに比して学習行動率の低調さが目立つ傾向にある。こうした隔たりは、学習者の側の潜在的な学習ニーズと、それを提供する自治体の側の取り組みの間の現状認識の「ずれ」から生ずるものであり、過疎地ほどその傾向が強い。 また、本年度の周辺地域での調査の特徴としては、個人の属性変数(年齢と学歴に集中)に対する回答拒否が多く見られた。調査環境は配慮してあり、方法論的に問題が無いとすれば、こうした結果の背景にどのような因果関係があるのかを特定する必要があろう。ここに新たな課題が生じた。 研究完成年度にあたる本年は、これまでの2年間に渡る研究結果を報告書としてまとめるとともに、昨年に引き続き、日本教育社会学会第48回大会(於:九州大学)において、学会発表をおこなう予定である。
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