研究概要 |
本研究は、臨時教育審議会答申の眼目の一つである生涯教育機会の拡大が、地域社会の中にどれくらい浸透してきているかを実証的に明らかにすることを主たる目的にしている。研究1年目の平成6年度は、都市部(神戸市北区・兵庫区1,426サンプル)の調査を実施し、平成7年度は、過疎地域(農山村の但東町・漁村の家島町1,337サンプル)の調査を実施した。特に今回の調査は、高齢者に焦点を当てた。そして、今年度の平成8年度は、両調査を分析比較し、まとめて研究成果報告書(A5版72頁 神戸堂刊)を刊行した。その報告書の中から、おもな知見を記しておく。 1.生涯学習に対する認識やその必要性を求める声は、都市部も農山漁村部もともに変わらず高い。しかし、その学習ニーズは、「経済的・社会的需要」よりも「人間的・個人的需要」からのものの方が多い。 2.高齢者の学習ニーズは「教養型」と思われがちであるが、必ずしもそうではなく「職業型」も高い。 3.高齢者にとっての生涯学習は、生きがいの創造が課題である。 4.生涯学習型社会を推進するためのモデルとしては、学習グループの拠点となるコア・ナットワークが必要であり、そのから周辺部へ波及効果を図るべきである。 5.過疎地域における学習機会や場の提供は、都市部に比べてかなり条件的(とくに地理的要因、ひいては、交通費などの経済的要因にもなる、学習情報の不足、音響効果など高度の設備を要する施設がない、高コストを要する学習の提供は町村役場の財政能力を超える、学習者数を増加させることにより参加費等の低減を図ることが過疎地ではできない等)に劣っており、これが学習魅力や学習参加の阻害要因となっている。 過疎地域の高齢者にとっての生涯学習とは、コミュニティ・ネットワークの形成および継続の場と機会とも換言できる。よって、生涯学習機会への参加の主たる要因は、人間関係が大きく関係している。 過疎地域では、学習関心の高さに比して、学習行動率の低調さが目立つ傾向にある。このような乖離は、学習者の潜在的学習ニーズと、それを提供する自治体の取り組みとの間の現状認識のずれが原因の場合が多い。 研究完成年度である本年度は、昨年度の日本教育社会学会第47回大会(於立教大)における中間発表に続き、同学会第48回大会(於九州大)で研究成果を発表するとともに、前述の研究成果報告書「生涯学習と教育機関の開放についての実証的研究」を刊行した。
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