聴覚は乳児の音声の発達にそれ程役割を果たさないとする伝統的な考え方は、聾の乳児と健聴の乳児が生後初期において同じ種類の発声をするという観察結果に基づいている。しかしその後、主に海外において聾と健聴の乳児のより大規模な音声の発達の比較研究が行われ、この伝統的な考え方は間違いであることが指摘されている。本研究では約2年間に渡って、2名の聴覚障害乳児と3名の健聴の音声を生成についての研究を行った。カノニカルバブリングと呼ばれる反復喃語の生成は健聴の乳児の場合は最初の10ヵ月までに生起する場合が多いが、聾の乳児ではその時期がかなり遅れるという事実が確認された。これは聴覚は音声の発達に重要な働きをしていることを示唆している。成熟した言語音の構音的及び音響的パターンを考慮して、聾と健聴のバブリングの差は明白であることがわかった。補聴器の装用は聴覚障害が発見されたら猶予を置かず、できるだけ早期、例えばカノニカルバブリングが始まる10ヵ月以前に行われることが望ましいと思われる。今後は聴覚障害乳児の人数を増やし、ここで得られた知見について確認する必要があると考えられている。さらに聾学校幼稚部や小学部に在籍している幼児・児童の発声・発語の明瞭性を調査して、聴覚障害の発生と補聴器の装用時期さらに聴力レベル等の関連性について考察することによって、補聴器の装用効果について考察を深めていく必要があると考えている。
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