アイヌ文化復興運動に関する各種の文化行事を前年度に引き続き補完調査し、同時に、アイヌの研究協力者を通じて文化変化の諸相、および文化復興運動の主観的意味についての聞き取り調査を行った。特に、日高地方、平取における木彫製作者、阿寒地方、阿寒アイヌコタンにおける土産物店経営者、同じ阿寒アイヌコタンにおける舞踊団モシリの演出・音楽家、胆振地方、白老における観光土産者物経営者等の協力のもとに、アイヌ文化の変化と文化復興運動との関係についての情報資料の収集がなされた。 この結果、文化復興運動を積極的に推進する人々がいる一方で、これらには無関心なまま観光アイヌ文化をいわば生計として営んでいる人々のいることが明らかとなった。この相違は、個々の社会的状況のみならず、それらをいかに民族的帰属意識として自覚し、また表現するかという個人差に起因するところが大きいものと分析することができた。さらに、文化復興運動の具体的な展開に際しては、意識的、あるいは無意識的に伝統的アイヌ文化の枠組み-人間と神々(カムイ)との間の互酬的関係と初原的同一性の観点-が重要な役割を果たしていた。その結果、阿寒アイヌコタンにおける舞踊団モシリに見られるように、広義のシャマニズムが現代の演劇として表現されるに至っていた。 さらに、アイヌ文化復興運動とその受け手である一般の人々との間に新聞報道等のメディアが重要な役割を果たしていることが明らかとなった。このため、新聞記事の収集が行われ、基礎資料の整備がなされた。
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