本研究は多民族国家中国の中の55少数民族の中で、特に新疆在住のウイグル族、カザフ族、及びシボ族に焦点を当てて、その教育政策の分析を試みたものである。 中国憲法によると、中国人民は公民として「言論、出版、集会、結社、デモ」(第35条)などの権利、「宗教信仰の自由」(第36条)を有し、また民族自治地方の自治機関を持っている。これらによれば、上記三少数民族は新疆ウイグル自治区において、民族自治を享受しているように見える。しかしながら、現実の教育現場においては、民族教育と国民教育とが後者の指導権のもとで展開している。すなわち、学校教育においては民族文化を尊重するかに見えるカリキュラムの中で、表面が民族教育、内実がナショナリズムによる国民教育であることが明らかであった。 たとえば、民族の特有の文字を有するウイグルやシボの民族学校では、教科書はもちろん、板書の文字やノートなども民族文字が使われているが、肝心のその内容は中国共産党を賛美したり、毛沢東礼賛であって、ことさら民族の英雄や神話などをアッピ-ルする内容とはなっていない。上記憲法の規定は、もちろん公的秩序の維持が前提となっているため、過度な自治権の主張は禁じられ、民族主義も限界を設けられている。 本年度、われわれは関連資料の収集に当たり、大小100冊以上の文献を購入できた。来年度は、この文献を精読して、少数民族のエスノグラフィーを執筆することが簡単である。
|