研究概要 |
1.各種新聞雑誌のアイヌ民族に関する記事/論説/写真/図絵等を網羅的に入手し、内容分析と資料評価を行った。資料収集は、日本資料通信社(東京)、人権博物館(大阪)、北海道立アイヌ民族文化研究センター(札幌)、国連大学(東京)、先住民族の10年連絡会(東京)、国立民族学博物館(大阪)、シサムの会(福岡)等を通じて行い、計1,854点の資料を扱った(対前年度比+29.9%)。 2.資料内容の分析・評価・選別にあたっては、前年度で用いた枠組を踏襲して電算入力し、データベースを拡充した(APPL=FileMaker Pro2.1;ファイル容量8.3MB)。主題分類は、前年度のサブフォルダー枠組に20項を追加、計392項となった。指定キーワードは5項を追加して170項となった。 3.今年度扱った資料内容の傾向として、 (i)特定の事件(とりわけ、二風谷ダムの試験湛水、「ウタリ対策懇」報告書の提出)をめぐる報道・解説・論評が(報告書でその扱いが問題となった「先住権」の具体的内実についての議論がほとんど無かった点を除けば)概ね質量ともに充実していた一方、 (ii)昨年に萌芽の認められた現代史(とりわけ戦後史)の文脈での民族問題の位置づけという視座がマスコミからは殆ど消失したこと、そして、 (iii)海外先住民族の状況と比較対照させた捉え方が衰えたこと、などが挙げられる。新傾向としては、 (iv)教育現場での多様な(かつ各地での同時平行的な)取り組みを紹介する報道が目立ったこと、 (v)地名研究や古代史考察の素材としてアイヌ民族を位置づける報道資料が急増した。日本人の抱く(あるいは好んで抱こうとする)アイヌ像が、<政治>から<歴史趣味>へと遡行しつつある傾向を反映したものと考えられるが、これは「ウタリ対策懇」の討議内容が、現代史・国際関係の領域よりも先史・考古・古代史の領域に重点をおいて展開されたことと対応している。
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