本年度はインタビューや文献資料などをとおして、以下の事項を調査した。まず、沖縄市を中心に演劇活動を主に行ってきた笑築過激団が、いまではコザ周辺の一地方文化を「沖縄文化」として表象しているが、その表象について当事者自身がどのように語るか、その「語り口」を調べた。その結果、これらの「語り口」(ディスコース)は、沖縄本島在住の知識人層にも共有され始めていることが判明した。つまり、これまで沖縄の言論とは断絶した「大衆のための」演劇や音楽というジャンルにおいて、沖縄文化を表象することばが当事者たちの意識的な努力の結果生まれつつある。すっかり定着した「チャンプル-主義」や「チャンプラリズム」という表現が、軽薄な思いつきでなく、沖縄文化を語るためのキーワードの一つなのだ。しかし、いまだに疑問も残る。たとえば、このような演劇や音楽の特徴を語るために生まれた「審美的な」ことばが、戦後から復帰25周年を迎えようとする本年度まで、沖縄(コザ)市に住むの人々の生活体験から、いかにして生まれたのかという疑問である。この疑問を考えるために、「ハ-レムルネッサンス」という1920年代のアフリカ系アメリカ人たちの文化運動をモデルにして(報告書の中に)考察を試みた。報告書の中では「沖縄モダニズム」という審美的・歴史的視点を提唱した。モダニズムが西欧近代の特権ではないという認識を待つまでもなく、すでに沖縄では自己の文化を客体化し、それをさまざまに創造し発展する視点が生まれていた。将来は、この「沖縄モダニズム」をキーワードに、研究を展開したい。
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