平成7年度は、福井県敦賀市および三方郡美浜町、山口県豊浦郡豊北町、岩手県下閉伊郡岩泉町の三地域で、死と葬送儀礼、家と先祖認識、葬儀の役割分担などについての調査を行った。福井県敦賀市および三方郡美浜町では、家族、親族、近隣集団などによる葬儀の作業分担の上で近隣集団の中に親戚がある場合、作業を分担する家数を確保するために親戚の中からも「他人を作る」という方法をとるなどという興味深い事例がみられた。近隣集団つまり他人が分担するはずの作業を親族が仮に他人となることによって担当するものである。今後も調査を続行する予定である。 山口県豊浦郡豊北町では、死亡当日の第一日目だけは葬儀の準備をすべて家族と親族とが行い、近隣集団が関与しない事例がみられた。この地域は、平成6年度に調査した広島県山県郡千代田町と連なる同じ浄土真宗の門徒の卓越した地域で、同じく講中と呼ばれる近隣集団が発達した地域でありながら、千代田町ではあたりと呼ばれる近隣集団と講中と呼ばれる比較的大きな近隣集団とが最初から最後まで葬儀を執行し、家族、親族は死者に付き添うのみという形であるのに対し、豊北町では最初の日だけは家族、親族が作業を行い、近隣集団は手を出さないという差異がみられる。その意味について今後検証していく予定である。 岩手県下閉伊郡岩泉町では、葬儀の作業の重要な部分を家族、親族が担当するという事例が多く確認できた。東北地方では南部の宮城県などでは契約講と呼ばれる近隣集団が葬儀の執行主体となることが知られているが、筆者の調査によれば岩手県などでは家族、親族が葬儀の執行主体となる事例が多い。その差異のもつ意味について今後検証していく予定である。
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