第一年度は、本課題に関わる全般的な資料の蒐集と、「治安維持法」関係に集中した。 資料蒐集では、最大の収穫として、外務省文書マイクロフィルム中の治安維持法関係の約20リ-ルを米国議会図書館より取寄せた。まだ全体をみることはできないが、第二・三年度の分析の中心となる。また、法務図書館・矯正図書館・外交史料館・国立公文書館・東洋文庫などの調査により、かなり多くの資料を入手し、治安体制の一画を占める思想司法の幅と奥行き-中国・「満州国」への司法官僚の進出、治安法制の整備や行刑・保護観察の実相-を、ある程度予想しうるようになった。実際の治維法裁判関係の資料蒐集は遅れたので、来年度の重点課題としたい。これに関連して、外務省警察についての論文を一つ発表することができた。 数年来、独自に進めてきた「治安維持法関係資料集成」を本課題とダブらせ、最優先の課題として取り組みつつある。それは、1995年が「前後50年」であると同時に、「治安維持法制定70年、廃止50年」であり、戦争の問題と不可避に結びついていると判断するからである。法の制定・改正史に重点をおくものの、植民地での施行を含めて運用面の資料も含む。前史から廃止・後史まで8章構成で、今秋の刊行を目ざしている。来年度以降は、ここを出発点に、具体的な裁判事例などの分析を考えている。 思想司法体制史論を当面の目標に、常に近代日本治安体制史の構想を固めていくことにしたい。
|