本年度は沖縄調査を2度実施し、昨年に引き続き県立図書館、沖縄高教組所蔵資料の調査を進めるとともに、新たに県公文書館で閲覧可能となった琉球政府文書の調査を始めた。琉球政府資料では、補助金などを通じての、復帰運動と行政とのかかわり、あるいは復帰時の陳情などを通じて、復帰への期待と不安の所在などを確認できた。 今年度の成果としては、「沖縄-同化的平和から自立・共生的平和へ」(『歴史学研究』第676号、1995年10月)で、沖縄にとって最も重要な記念日である沖縄戦終了の6月23日、サンフランシスコ条約発効で沖縄が本土から切り離された4月28日、沖縄の日本復帰の5月15日それぞれを歴史的に検証することで、沖縄におけるアイデンティティの模索、沖縄における自治、自立意識の獲得、平和観の変遷を明らかにした。この作業は、沖縄戦終了後の50年を通観したものであるが、祖国復帰運動の時期を沖縄戦後史のなかでどう位置づけるかの前提となるものである。すなわち、1960年代に復帰運動が本格化することで、これらの記念日への取り組みが始まるが、60年代後半の本土も巻き込んだ全島的運動の広がりのなかで、従来の取り組みへの批判、反省、思想的掘り下げが行われたこと、しかし、その到達点は、復帰後そのまま発展させることはできなかったこと、復帰後15年頃からようやく、復帰そのもの、沖縄戦後史の意味の問い直しが従来より広く、深く行われ始めたことを明らかにした。
|