本年度は管江真澄の遊歴の旅をできるだけ現地踏査してみるという点に活動の中心をおき、真澄の旅の起点である信州地域をはじめ、庄内・秋田・津軽の日本海側、および岩手県南部から宮城県北部にかけての地域を急ぎ足ながら巡見・調査し、必要に応じて関係遺跡の写真撮影を行った。また、アイヌの民族文化を含め管江真澄日記を読解するうえで必要な図書・報告書類を購入するとともに、手こだえを感じている研究小テーマについての資史料の収集を、東北地域のみならず、東京や関東地方の文書館・図書館にも対象をひろげて実施した。とりわけ真澄の記述で注目される小正月行事の鳥追い歌について、そこに表われた境界観念を裏づけるのに不可欠な市町村の民俗誌のデータを東日本一帯にわたって収集できたのは大きな収穫であった。次年度にこれを整理して論文にまとめたいが、その他にも疫病や飢饉、田村麻呂などの蝦夷征伐伝承、奥羽民衆の地域アイデンティティや生活文化などに関して知見をひろめることができた。さらに真澄研究のための条件整備をしたいという目的があるが、これについては小テーマに関連する事項索引の作業を持続的に進めるとともに、真澄の貢献でみのがせない風景や習俗を描いた絵画資料について、アルバイトを雇いカード化することができた。これによって、本文と絵画を組み合わせた読解が容易になった。今年度は真澄についての本格的な論考を出すまでには至らなかったが、近世東北の民衆生活を飢餓とのかかわりで取り上げたさい、真澄の「外が浜風」の記述を活用して論述した。
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