本研究者は、1994年度に「宗族聚居」の家に関する江蘇・浙江・安徽等の地方志の記述と建築史や美術史の中国の研究者の調査報告の調査を行なった。1995年度はその内の特に浙江地方の宗族聚居家屋に関する資料の収集・整理を行ない、宗族聚居の家の一端の解明を試みた。その資料の整理は以下の様である。 (1)乾隆『勅修浙江通志』(人物八、義行)に記載された「義行」と当時評価された行為の内から、宗族聚居の家の形成と関連の深い、宗祠・族田・私塾等の設置と累世同居等の内容及びその行為者の姓氏を縣別、時代別に整理した。 (2)建築史や美術史の中国の研究者による伝統民間家屋に関する最近の調査・報告から、浙江地方の残存宗族聚居家屋(廳堂建築)を確認し、その家屋ごとにその所在地・旧居住者・建築規模の解説と平面図等をまとめた。 以上の収集資料の検討から、清代の浙江における宗族聚居の家に関する特徴をまとめた。それは以下の様である。1)宗族聚居の理想型は、父系親族の「四世同堂」である。2)その建物は、祖先の霊位を祀る廳堂を中心にそれを取り囲む形で住居が配置されていた。3)聚居家族は、経済的には、族田によって支えられ、宗祠を中心に宗族のその地方の支派が結集していた。4)聚居家屋の建築は、一族の有力者の資力によったが、資産を蓄積する近道は官僚に登用されることであり、そのために儒教的教養を身に付ける私塾を設け、家=一族の繁栄を図った。5)宗族は聚居の家を主軸に聚落を形成し生活していた。
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