本研究は、6年度の科学研究費で調査・収集した浙江地方の宗族の一支派一房族の父系親族が集って居住する所謂「宗族聚居」の家屋に関する資料の整理・検討に基づき、清代の浙江地方における宗族聚居の家の一端の解明を試みたものである。資料の整理は以下の様である。 (1)乾隆『勅修浙江通志』(人物八、義行)に記載された「義行」と当時評価された姓氏の行為の内から、宗族聚居の家の形成と関連の深い・宗祠・族田・私塾等の設置と累世同居等の内容及びその行為者の姓氏を縣別、時代別に整理した。 (2)建築史や美術史の中国の研究者による伝統民間家屋に関する最近の調査・報告に基づいて、浙江地方に残存する宗族聚居家屋(廳堂建築)を確認し、それらの家屋について、その所在地・旧居住者・建築の解説・平面図等を縣別にまとめた。 以上の収集・整理した資料の検討から、清代の浙江地方における宗族聚居の家に関する特徴をまとめた。それは以下の様である。 (1)宗族聚居の家の理想型は、父系親族の「四世同堂」である。 (2)宗族聚居家屋は、祖先の霊位を祀る廳堂を中心にそれを取り囲む形で住居が配置されていた。 (3)聚居家族は、経済的には、族田からの小作料の収入によって支えられ、宗族のその地方の支派が宗祠を中に結集していた。 (4)聚居家屋の建設は、一族の有力者の資力によった。当時有力者となり資産を蓄積する近道の一つは官僚に登用されることであった。そのために儒教的教養を身に付ける私塾をその地に設け、家=一族の繁栄を図った。 (5)宗族は聚居の家を中心に聚落を形成し生活していた。
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