近代中国の鵜片問題の解決を究極の目標としつつ、当面の財政困難を打開する方策として、輸入鵜片に対する関税と厘金を増額し、輸入時に海関において同時に徴収する事による税収増を図る「税厘併徴」は、その対英交渉の過程で、鵜片貿易を一手に扱う請負会社設立構想が中英双方から検討され、中国側はインドに馬建忠を派遣し、調査と打診を行い、その中で鵜片輸入の漸減の協議が為された。又中国はイギリスに対抗する勢力となりつつあるアメリカと鵜片貿易禁止の内容を含む条約を結び、更にロシアとも「続改陸路通商章程」にこの内容を盛り込む事により、イギリスの鵜片貿易固執の姿勢を孤立化させる政策を進めていた事、これを今後各国と締結する条約に適用させようとする中国政府の姿勢が明らかになった。この事は中国が鵜片禁止政策を全く放棄した訳では無い事を意味する。しかし他方で中国海関総税務司のロバート・ハートの権限拡大を図る狙いから、当面の財政難の解決を最優先課題とし、総税務司の下での増税策が現実には採用され、鵜片輸入の漸減は20世紀以降に持ち越される事となる。この「税厘併徴」策実施の為、ポルトガルとの間の修好通商条約の締結交渉も、中国政府の主導の下ではなく、ハートの部下のイギリス人キャンベルにより進められた。ここには当然イギリス本国の政策が反映されている。中国がポルトガルによる澳門管理を承認するに至ったのも、澳門の地理的な位置から、列強の争奪の的になる土地をイギリスの影響力を及ぼし得るポルトガルに管理させる事によって、フランス等の進出を抑えるという戦略的な狙いが込められていた。事は中国政府の考えていた様な、単に鵜片貿易の合理的な管理と密輸・脱税の抑止の為に、ポルトガルの管理を認めるという問題だけではなく、東アジアにおける列強間の勢力構想の一環を構成するものであった事が明らかになった。次年度に詳細な報告書にまとめる予定である。
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