欧米中国史学の現風景DavisのChinaの検討 1820年の初版から1857年の最終版まで増補が繰り返され、最後の第7版はフランスのシノロジーとも異なる独自の性質をもった19世紀前半の英国中国学の集大成であった。7版は、第5章に英中交渉史の1840年から57年までの部分を付け加え、更に付篇としてI自由輸入とアヘン消費 II太平天国の乱の二節が新たに設けられた。太平天国はまだ存続中のことであり、ここからもこれは同時期の中国を知るための書であることが明確である。すなわち研究書というより現在の中国情報を提供する実用書であり、歴史、文化、社会などの記述はその背景を説明するための叙述である。これは、Davis自身がそうであるように、英国中国学が外交官や宣教師、貿易商人など実務家によって始められ、実用目的に供されて、その伝統は最近まで及んだという通説を補強するものである。しかしそれはアカデミズムとは無縁との消極的評価を生むが、逆に経書の世界或は理念の世界を実像のごとく紹介していたイエズス会情報を修正し、現実に即した中国像を提供するという積極的意義をも有していたのである。全23章、900頁余りの巨冊は、西欧中国関係史、中国総論、都市、宗教、学術・芸術、産業と商業、付篇からなり、それぞれが例えば中国総論は、地理、歴史、政府と法律、国民性と制度、風俗と慣習のように章立てされ詳しい叙述がなされている。こうしてみるとこの書は、文字通り中国学の書であり、文史哲を総合した観点から中国とは何かとの問に答えようとしているのである。これら各章のテーマを追及するのに最も適当な学問的方法を採用し発展してきたのが、現在の欧米の中国史学である。社会科学、文化人類学などとの相互乗り入れする現状の背景を考える場合、大いに参考となる書であろう。
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