本研究の目的は、次の2点である。第1は、抗日戦争前夜における中国国民政府の土地政策の全体像とその到達水準を解明することである。その場合、地域ごとの実施実態が大きく相違することに留意しつつ、とくに長江下流域の経済的先進地域に重点を置く。第2は、第1で明らかにした政策志向と抗日戦争開始以降の戦時土地政策の展開との連続性と非連続性を展望することである。以上の研究目的の遂行のために、内地留学先の東京都立大学をはじめ都内の主な研究・史料センターにおける史料調査・収集を精力的に行った。具体的成果としては、研究期間の制約や史料収集の展開状況に規定されて、前記の研究目的の内の第2に重点を置くことになり、とりわけ戦時財政を支える上で大きな役割を果たした土地税制の実態を分析した。そこでは、戦前先進地域で緒についた土地税制近代化の方向が戦時状況に直面して後退・歪曲されたことを確認するとともに、そのことが政府の戦時体制の維持にとっても制約要因となったことを明らかにした。その成果の一端は、既に平成6年度広島史学研究会年次大会東洋史部会(10月30日)において口頭報告するとともに、「中日戦争と中国の戦時体制」と題する論文(池田誠編『20世紀世界における日中関係』法律文化社に所収、平成7年に公刊予定)の重要な構成部分となった。なお、調査・収集した史料群は、今後の研究に有益に使用されることになろう。
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