本研究の目的は、次の2点である。第1は、抗日戦争前夜における中国国民政府の土地政策の全体像とその到達水準を解明することである。その場合、地域ごとの実施実態が大きく相違することに留意しつつ、とくに長江下流域の経済的先進地域に重点を置く。第2は、第1で明らかにした政策志向と抗日戦争開始以降の戦時土地政策の展開との連続性と非連続性を展望することである。このうち、順序は逆になるが、第2点については平成6年度における研究で一応の見通しを得て、その成果の1部を翌年度に公表した(「日中戦争と中国の戦時体制」池田誠他編『世界のかなの日中関係』法律文化社、1996年3月、に所収)。したがって、本年度においては、第1点に重点をおいて研究を推し進めた。その結果、国民政府の土地政策が最も進展した江蘇省について、その実施実態の具体的な全般的状況を明らかにできた。とくに、上海県、南匯県では、国民政府が意図した土地・地税制度の近代化の最終段階である地価税導入まで行き着いたこと、啓東県では自作農創設の具体的プランができあがり、実施段階の直前にまで至っていたことなどは注目される。また、こうした土地政策の進展が、日本の侵略・占領という事態の中で中断し、日本占領下においては改革の成果は継承されることなく、改革以前の旧来の構造が再現していたことも確認できた。以上の研究成果は、すでに平成7年12月9日に広島中国近代史研究会例会において口頭発表しており、近く論文として公表する予定である。その個別分析と以前にとりあげた江蘇省以外の重要地域の分析とを重ね合わせるなら、第1点目の目的はほぼ果すことができたと考えられる。
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