昨年度は、主としてシチリアの内陸部の大土地所有地帯を対象として、そこにおけるアグロ・タウンと呼ばれる集落構造を調べた。これをふまえて今年度は、こうした集落構造で生活する人々の社会的結合関係の検討を課題に設定して研究を進めた。アグロ・タウンは一面では農民と地主の対立する階層的社会であるが、また他方ではパトロン-クライアント関係や血縁関係が網の目のように織りなされて、階層を越えた社会的結合関係が作り出されている社会でもある。シチシアの社会にとってマフィアの存在が大きな問題となっており、従来の研究はこのマフィアの存在を大土地所有地帯の社会構造と結びつけて説明しようとする傾向が強かったが、それはどちらかといえば階層的関係で説明しようとするもので、必ずしも階層を越えた社会的結合関係に注目したものではなかった。マフィアの問題の検討を進めていく中で、マフィアはこれまでの研究が強調してきたように決して大土地所有地帯にのみ存在するのでなく、首都パレルモとその近郊の集約農業地帯において活発に活動し、しかも都市の政治と経済において重要な役割を演じていることが分かってきた。そこでマフィアを通してシチリアの都市と農村の関係、また社会と文化のあり方を考えてみることに焦点を定め直して、これまでの調査をその観点から再整理していった。こうして明らかになってきたことは、シチリアの一部の政治家および文化人の間にマフィアを犯罪組織としてよりは、シチリアのサブカルチャーとして意味付けようとする動きが根強く存在するということである。そしてこのことがシチリア主義といわれるものと結びついて、シチリアの文化と社会の特殊性を強調する立場が生じ、シチリアの一定のイメージが意図的に作り出されていたということである。
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