研究概要 |
3年間の継続研究の初年度であるため、主に基礎史料の検索・収集と基本文献の熟読に専念した。基礎史料のうち、ギリシア古典籍についてはThesorus Linguae Graecae のCD-ROMによって、ギリシア語碑文についてはPackard Humanities Instiute の CD-ROM によって、市民権に関係する諸規定、諸事例を検索し、また市民と非市民の各身分やその属性に関する記述や事例を検索して、基礎史料の収集に努めた。基本文献の熟読については、Paul McKechnie;Outsiders in the Greek Cities in the Forth Century BC,Oxford1989を翻訳し、年度末の1995年3月にミネルヴァ書房から出版した。その他、既収集分や新規購入の文献の熟読にも努めた。これらの研究成果の一部は、「古代ギリシアにおける社会移動とへゲモニ-」『近代西欧における社会移動とヘゲモニ-』(渓水社、1995年3月刊所収)に部分的に反映されている。 マケクニ-の著者は、古代ギリシア史では類例の少ない社会史的手法によって、都市国家から追放され亡命した市民階層の動向、とくに都市を破壊され流出してゆく市民や植民市建設で市民身分になる人々のそれ、市民身分のままで海外を旅行・放浪し続ける医者、哲学者、遊女、職人、商人、宮廷官吏、傭兵たちの動向などを史料的に追跡し、かかる都市国家からのアウトサイダーたちの増加と社会流動性の高まりが、ギリシャ都市国家社会の崩壊とヘレニズム社会の成立を生み出す原動力であったと評価する。まったく新しい見方であり実証であって、ぜひ後進に紹介すべく翻訳した。収集史料の中では、西口クリス人の植民碑文がアーケイク期の市民権と財産相続権に関する唯一の史料であるらしいことがわかり、今後はこの碑文の分析を中心に関係史料を総合的に考察して行く予定であり、今後の研究の核になると考えられる。
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