都市国家ポリスが、古代の基本的戦闘方式である重装歩兵戦法を採用する以上、ファランクス戦法の要請する条件から逸脱することはできない。貴族的戦闘方式たる一騎討ち戦法から重装歩兵の密集隊戦法に転換する前7-6世紀に部族改革が集中するのは、このファランクス戦法の要請する条件と関係している。 密集隊兵戦法の要請する条件とは、優越的兵数の確保と軍隊の内部結束という単純な原則である。ポリスでは兵は市民であり、兵数の増強は市民団の拡大を意味する。しかし、武具自弁には一定の経済力を要し、重装歩兵の増強には制約があった。ド-リア系ポリスでは、被支配階層たる先住民の裕福者層を市民団に、非ド-リア系ポリスでは、地方村落の富裕者層を市民団に編入することで課題に対応した。いずれにせよ、かれらは旧来の市民に対して新市民であった。 他方、軍隊の内部結束の強化は、市民団内部の民主化を前提とした。市民団全体が一つのエ-トスと一体的意識を共有し、差別なき政治的社会的生活を多少とも保証する必要があった。このため市民権は厳密になり閉鎖的になる傾向があった。 しかし、現実には戦闘で減少した市民軍を補強するために、非市民たる庶子や没落市民、隷属階層などを市民団に編入することが不可欠になり(スパルタ)、さらなる下層階層からの重装歩兵軍の補充が必要になり(アテナイ)、あるいは傭兵の雇用や市民の流動化(移動)が進行し、時代の経過と共に市民と非市民の間には実質的な区別が希薄になって行くことを史料的に可能な限り明確にした。
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