1995年度の研究実績はおおよそ以下の通りである。まず、1994年度の研究成果の一部を「西欧中世初期における塩の生産と流通--ロワールとロレ-ヌ--」『下関市立大学論集』39巻1号(1995年5月)として公刊し、塩のような産地が限定された物品に関しては、生産と流通の双方で大経営と小経営との構造的結合が認められ、それが生活必需物資を社会の隅々にまで到達させるのに寄与していたこと、などを論じた。 それと並行して、葡萄酒・穀物の生産・商品化に関わる史料の集積、研究史のサ-ヴェィを進めた。現在までのところ、穀物に関しては次のような見通しが得られるに至っている。 (1)パリ地方の大修道院領では、9世紀にすでに三圃制度がある程度普及していた。しかし、冬穀として栽培された穀物の大半はライ麦で、小麦は他の他方からの輸入に頼っていたと思われる。(2)穀物はカロリング期市場の主要な商品のひとつであり、その分配にはさまざまな形で市場が関与していた。特に領主制との関係が希薄な零細民、外来者にとって、穀物の調達手段はまずもって市場での購入であった。(3)穀物を状に流入させるために、貨幣貢租の賦課などの手段によって、生産物の市場での売却を強制した。すなわち、大所領の領民の多くにとって、商品生産は保有地での小経営の一部をなすと同時に、領主に対する義務の履行という一面をも持っていた。 1995年度の研究成果の一部は1996年5月に開かれる社会経済史学会全国大会の共通論題報告にて公表し、その後できるだけ早い機会に論文として公刊する所存である。
|