アレクサンドロス大王の五つの伝記の中から、今年度はとくにプルタルコスとディオドロスの読解と研究にとり組んだ。これらの作品に用いられている原史料は、東方遠征に従軍した作家たちと、従軍しなかった作家の二つの系統に分けることができる。したがってアレクサンドロスの実像と遠征の実態に迫るためには、両者の記述の綿密な比較検討が必要である。今年度はまず、いくつかの重要な主題についてのケース・スタディを試みた。たとえばアレクサンドロスのエジプト遠征、リビアのアモン神殿訪問、ペルセポリス放火、アマゾン女王との会見などである。各エピソードに関するいくつもの伝承を比較することによって、歴史的事実の復元を目ざした。しかしながらプルタルコスとディオドロスの作品全体の原典研究までには到らず、来年度の課題として残ることになった。
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