今年度は、現存する5種類のアレクサンドロス大王伝の中から、ディオドロスとプルタルコスの2篇に重点をおいて、各々の依拠する原典を特定しつつ、伝記作品としての比較研究を行った。とくに考察の対象とした項目は次の3点である。 1.フィリッポス2世暗殺へのアレクサンドロスの関与の有無について. いくつかの伝承はアレクサンドロスを真犯人としているが、プルタルコスの記述の批判的検討により、彼の関与はなかったと結論することができた。 2.アレクサンドロスの政敵とされるアケドニア貴族アッタロスの位置づけについて. プルタルコスとディオドロスの伝承を比較検討した結果、現存史料には両者の関係を誇張したり創作した部分が多く含まれており、アレクサンドロス即位当時のマケドニアの政情についてはかなりの見直が必要であることが明らかになった。 3.マケドニア王家の一夫多妻制について. 現存史料に数多くみられるギリシア人の偏見や王妃オリュンピアスに対する敵対的描写を取り去って、一夫多妻制の実態を冷静にとらえることを試みた。 以上3点についてはいずれも独立の論文を執筆ないし準備中であり、今年度中には公表できなかったが、来年度には確実に公表できる見通しである。
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