本研究の目的は、現存するアレクサンドロス大王伝の史料批判を通して、古代マケドニア王国及びアレクサンドロス帝国の理解を深めることにある。しかしその対象は広大であるため、具体的には次の3点に焦点を絞って研究を進めた。 第1に、フィリッポス2世の暗殺について、妻オリュンピアスと息子のアレクサンドロスが関与していたとする伝承がある。しかし関連史料の検討の結果、この伝承には根拠のないことが明らかになった。 第2に、暗殺をめぐる状況や大王の死後の後継者戦争には、王家が実践していた一夫多妻制が深くかかわっている。しかるに古代ギリシア人の手になる史料は、その実態を歪めて伝えているため、その歪みを正すことによってはじめてマケドニア王家を正しく理解することができる。 第3に、一夫多妻の行動と心理の具体例として、オリュンピアスと取り上げた。彼女は古代からすでに悪評に包まれていたが、伝承の批判をとおして、その生涯を一夫多妻制の検知から再検討することを試みた。
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