本年度は当初の計画に従って以下の調査・研究を行った。 1.資料の収集と整理:中世集落に関する研究論文、考古学的発掘調査の報告書等の資料・文献の調査・収集の継続。 2.資料のデータ・ベース化:前年度までに完成した『参考文献目録』と『中世集落一覧』の内容の充実。イメージスキャナーを用いて考古学的資料(集落の分布図、軌跡周辺の地形と土地利用状況、遺構・遺物の実測図や写真等)の画像データを処理し、画像データ・ベースを作成。 3.地域研究:上記の資料収集と整理、データ・ベース化によって本研究のテーマであるブルガリアにおける中世集落に関する基礎的資料の整理が終了した。そこで集落の分布状況から地域的な特性を把握し、集落の発展や衰退のメカニズムを考察することが可能になった。ブルガリアのなかでも集落が稠密に分布する南部のトラキア地方に注目し、個別の地域研究を通じて中世集落の特徴について研究を行う。 トラキアはブルガリア南部・ギリシア東北部・トルコのヨーロッパ部に及ぶバルカン半島の東半部の地域で、肥沃な沖積平野を中心に古くから多数の集落が形成され、集落史研究の格好のフィールドを提供している。中世にはビザンツ帝国とブルガリア国王との国境地帯に位置しており、両国関係において重要な役割を果たしてきた。しかしながら、従来のブルガリアにおける中世集落の研究や考古学的発掘調査は、首都プリスカ、プレスラフがあった北ブルガリアを中心として行われている。ただしトラキアに関しても中世集落の集成とも言える集落目録が刊行され、考古学的発掘調査が増加し報告書も出版されており、ようやく研究が可能な状況になってきている。そこで、本研究ではトラキアの中世集落を中心にブルガリアとビザンツ帝国の集落の比較も視野に入れながら研究を進めていくことになる。
|