研究概要 |
本研究は「ギリシア著作家史料集成」および「PHI碑文集成」のCD-ROM版を利用して独自にペロポネソス同盟構成国とデロス同盟構成国のデータベースを作成し,そのデータベースによって各構成国の社会的・経済的特性を明らかにし,それらの特性が両同盟の歴史的発展や同盟間の外交関係,対立抗争に及ぼした影響を明らかにすることを目的としている。過去3年間にわたる研究の成果は概略以下の通りである。 1.ペロポネソス同盟構成国のうち,コリントス,メガラ,アイギナについてデータベースを作成した。デロス同盟構成国については,ミュティレネとサモスについて進行中である。 2.ペロポネソス同盟諸国の地域史的研究文献について収集・整理し,各ポリスごとの文献目録を作成した。 3.文献史料以外に考古学的資料(陶器,建築遺物,工芸品,貨幣)に関する研究成果を援用することによってコリントス,メガラ,アイギナのアルカイック時代における歴史的発展のダイナミズムを明らかにした。植民国家=貿易国家であるコリントス,農業国家=植民国家であるメガラ,非植民国家=貿易国家であるアイギナの3ヶ国の社会的・経済的・政治的特性の分析は,アルカイック・ギリシア経済史の再検討を要請する。ギリシア本土の局地的ネットワークと遠距離貿易との結合が,農業植民市以外に貿易センターとしての植民市(エンポリオン)を存在させることになった。 4.各構成国のペロポネソス同盟加盟の時期および原因について明らかにした。アイギナがスパルタの仇敵アルゴスと歴史的に友好関係をもちながら,アテナイとの海上覇権闘争の過程でスパルタへ接近したことは,貿易国家アイギナの繁栄と存続の基盤である地理的利点がデロス同盟の成立によって脅かされるようになった結果である。アテナイに対するコリントスの断続的な友好・敵対関係はメガラの存在によって説明できる。 5.デロス同盟構成国のアテナイに対する貢納金の査定は人口および農地面積に基づいたと思われるが,アイギナの場合にはコロンナ港での関税収入と関係があった。従ってアイギナとペイライエウスの競合はアテナイにとって自家撞着であった。
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