研究概要 |
本研究の当初の目的として前411年と前404年の寡頭派政変に関連する事項を調査・研究してきたが,その結果,本研究の鍵となる人物であるテラメネスの政治思想を考察することによって「パトリオス=ポリテイア(父祖伝来の国制)」の問題について進展がみられた。「パトリオス=ポリテイア」について従来の研究者たちは,テラメネスが「父祖の国制」を追究する懐古的な政治家であると考えてきたが,ギリシア語原典史料の考察の結果,実はそうではないことが分かった。彼は,「父祖伝来の国制」すなわち当時のアテナイ民主政の基本法を重視せよ,と考えて2つの政変に参加したに過ぎないのであり,その意味で彼は寡頭派ではなかったことになる。また,この「父祖伝来の国制」の解釈の仕方を軸としてその後の弁論家イソクラテスや哲学者アルストテレスの批評を考察してみると,テラメネスの政治思想を彼らが批評する上で前403年に行なわれた法制改革によって確定されたアテナイ民主政の基本的制度,当時のアテナイ人の言葉では「ソロンの諸法」が反映していることが分かった。この「ソロンの諸法」をこのように新たに得られた知見を基にして解釈し直すと,その後の前4世紀のアテナイ民主政下での弁論家たちや著述家たちのアテナイ民主政論についてかなり明確に把握する道が開けると思われる。この点については今年度の本研究においては十分に検討できなかったので,来年度に改めて検討したい。 本年度では,これらの「父祖伝来の国制」に関する新しい知見を論文にまとめて学術雑誌上に発表した。また,これについては英文論文も学術雑誌上に発表した。
|