本年度は、当初の研究実施計画通りに、ヨ-ゼフ主義Josephinismus的改革政治を支える最大のブレーンとして知られたゾンネンフェルスJ.v.Sonnenfelsの思想におけるナショナリズム志向の特異性を追究し、そのことを通じて、18世紀末〜19世紀初のハプスブルク帝国で醸成されようとしたオーストリア的全体ナショナリズム形成の動きとその歴史的特徴を把握・解明すべくつとめてきた。その主要な素材として利用したのは、ゾンネンフェルスにより1772年に公刊された小著『祖国への愛について』Ueber die Liebe des Vater-landesであり、一橋大学の社会科学古典資料センターに所蔵されている原典(メンガー文庫)を複写・解読することで、ある程度の本質理解に達し得たものと考えている。このような一応の研究の成果を土台にして、次の段階では、すでにやや不完全な形で公表している拙論「ヨ-ゼフ主義とオーストリア・ナショナリズム」(『オーストリア・ヨ-ゼフ主義に関する研究』九州女子大学紀要・特輯号1994)の内容を補訂・拡充することにしたい。当面の目標としては、とりあえず、本年度の成果の一部を、5月に山口大学で開催される日本西洋史学会第45会大会の近代史部会で発表する予定である。
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